研究内容

固体高分子形燃料電池用金属触媒の溶解劣化機構の解明

固体高分子形燃料電池は,酸素と水素からエネルギーを発生し,反応生成物として水のみが生じる極めてクリーンなエネルギー源です.すでに自動車への搭載が実現するなど,来る水素社会における電源として利用拡大が期待されています.しかし,Pt合金触媒の価格が依然高価であり,普及への障害となっています.それに加え,極めて耐食性に優れるPt合金であっても,自動車の起動・停止,加速・減速による電池への負荷によって,徐々に溶解劣化し,初期の発電性能が維持できないことが問題になっています.

我々の研究室では,自動車の運転状況を模擬した電池の負荷モードによって,白金合金やその触媒がどのように溶解劣化していくのか,酸素還元反応特性がどのように劣化していくのかについて,チャンネルフロー電極法などの電気化学手法を適用して,機構解明を行っています.

金属材料の腐食反応機構解明に関する研究

多くの金属材料は,使用環境中で腐食反応によって劣化していきます.その劣化の様相は,金属,合金の種類,環境の特徴によって様々です.しかし,いずれの場合も,元々有した強度や靭性,その他機能性を失っていきます.このような劣化現象は,金属材料の酸化と酸素や水素イオンなどのような環境中の酸化体が還元する反応が組み合わさって起こる酸化還元反応です.

我々の研究室では,腐食劣化機構を解明するために,電気化学的な手法を用いて,金属材料の多岐にわたる環境における腐食反応機構の解明,腐食反応速度の評価を行っています.炭素鋼,亜鉛,ステンレス鋼,アルミニウム合金,タンタル,などの金属材料を対象とし,酸性~アルカリ性の水溶液中をはじめ,薄い水膜下,土壌やコンクリート中,高温溶融塩など環境も様々な環境の現象を調査しています.

腐食現象の電気化学評価・モニタリング手法の開発

腐食現象は,時々刻々と様相,反応速度を変える現象です.環境中でどのように腐食が進行していくのかを理解した上で,防食手法を確立することは重要です.そこで,我々の研究室では,電気化学インピーダンス法をはじめとして,電気化学的な手法やその他の方法を利用して腐食現象を捉える手法を開発しています.

金属材料の環境劣化割れ現象の機構解明

金属材料は強度が高く,靭性に優れる特徴があります.しかし,腐食環境に曝された金属材料に引張応力がかかると,腐食反応と応力との相乗作用によって材料にき裂が発生し,それが伝播していくことで破壊につながる環境劣化割れという現象が生じることがあります.

我々の研究室では,化学プラント,原子力発電プラントなどにおける環境劣化現象として,ステンレス鋼の応力腐食割れ,鉄鋼材料の水素脆化割れ機構の解明に関する研究を行っています.

腐食現象の数値シミュレーションに関する研究

金属の腐食現象は,金属の溶解・酸化反応と,環境中の酸化体の還元反応により生じる酸化還元反応です.このとき環境中には,金属イオンが溶け出したり,表面のpHが変化することがおこります.また,場合によっては溶液内の化学反応によって,腐食生成物が形成します.このように,酸化還元反応によって,時々刻々と環境,表面状態が変化していきます.

近年計算機の高性能化にともない物理化学現象を数理モデル化し,数値解析によってその現象本質を捉えようとする試みが,多くの科学技術分野でなされています.我々の研究室でも,単純な腐食系について,腐食反応をモデル化し,実際の腐食試験結果と数値計算による結果との比較を行い,腐食現象の数理解析の適用可能性について検討しています.